WINEとは?

早稲田大学ナショナリズム・エスニシティ研究所、略称WINEは、2019年10月1日に設置されたアジア初のナショナリズム・エスニシティ研究機関です。早稲田大学総合研究機構の傘下にあるプロジェクト研究所のひとつですが、早稲田大学の研究者に限らず、国内外の最先端の歴史学者を中心に総勢26名から成り立っています。

 1980年代の英米圏で本格化したナショナリズム研究は、90年代末までに近代論(Modernization theory)、原初論(Primordialism theory)、エスノ象徴主義(Ethnosymbolism)という図式のもとで論争が繰り広げられ、文化人類学・民族学・政治学・社会学・歴史学の領域を超えて世界レベルで深化するに至りました。
 近代論構築主義の文化研究には、カルチュラル・スタディーズやポストコロニアル・スタディーズも加わり、国民史研究の論壇はいっそう活況を呈しました。


 しかし、重要なのは、2010年代以降、いずれの理論も限界が指摘されはじめたことです。
 歴史的文脈にかかわりなく前近代に近代国民のエスニックな起源を措定してしまう原初論の非歴史性は批判されて久しいわけです。とりわけ歴史学では、原初論本質主義に対する批判は、近代論構築主義に立脚しながら国民史批判として展開されてきました。
 1990年代にはこの文脈に立つ国民史批判は内外で一種の流行とまでなりましたが、今日ではむしろ当の近代論もまた、原初論と同様、方法論上深刻な岐路に立たされています。

 具体的には2010年代までにおもに以下の四潮流が出現しているといえます。
(A) E・ゲルナー、E・ホブズボーム、B・アンダーソンらのいわゆる近代論構築主義、
(B) P・ヴァン・デン・バークらの原初論本質主義、
(C)A・スミス、J・アームストロングらのエスノ象徴主義、
(D)P・ギアリー、F・カールタ、C・ヒルシ、M・ヴィローリ、P・ジャドソンらの社会構成主義、
です。
特にDは歴史学によるナショナリズム理論およびエスニシティ理論の総合の可能性を示すものとなっています。


 これまで日本は英米にならび近現代ナショナリズム史研究者数を多数輩出していましたが、個々が個別英語論文等で単発的に成果を発信するに留まっていました。
 このような状況から、日本におけるナショナリズム研究センターの設置と研究成果の世界的発信が常々期待されていたのです。

 この世界的要請を受け、同研究の総合化・体系化を図ることを目的に、アジア初のナショナリズム・エスニシティ研究所がようやく早稲田に設置されることになりました。
 今後3年の研究期間を経て、英文ジャーナルNationalism and Ethnicityを創設し、研究成果を内外に毎年発信してゆきます。
 また、国外の研究機関と連携しながら、シンポジウムを年2回開催し、アジアからナショナリズム・エスニシティ研究を発信してゆく予定です。

TOPICS

4.WINE緊急オンライン対談会「新型コロナウィルス感染症と国民国家/ナショナリズム」

日時 2020年6月27日(土)14:00~16:30
開催の趣旨 昨今のコロナ禍により、歴史学が大きな変容を迫られるのは必至です。そこで、本対談は、日本史・東洋史・西洋史の識者に、ご専門の実証研究をふまえつつ、コロナ禍中およびコロナ禍後の現代歴史学に向け、新たな論点や視点を追加いただくことを趣旨と致します。これによって、歴史学の方法を再考し、歴史認識まで議論を展開できれば幸いです。
開会の挨拶と問題提起

中澤達哉 WINE所長(早稲田大学) 14:00~14:15

  「新型コロナウィルスの副作用としてのナショナリズム」

報告者・論点提示

池田嘉郎 WINE招聘研究員(東京大学) 14:15~14:30

  「コロナ禍の中の現代国民国家」

加藤陽子 (東京大学) 14:30~14:45

  「コロナ禍の世界が映し出した「神なき国」の近代と「社会」」

福士由紀 (東京都立大学) 14:45~15:00

  「中国の感染症とナショナリズム」

小沢弘明 WINE招聘研究員(千葉大学) 15:00~15:15

  「新自由主義下のCOVID-19」

・休憩 15:15~15:30 

・報告者間の対談・意見交換 15:30~16:30(予定)

(備考)適宜、質問へのリプライを含みます。若干、時間が前後することがあります。

開催方法

Zoomウェビナーによるオンライン対談会

申し込み方法
参加については事前登録制を設けます。
登録情報に基づき、 主催者からZoomの招待を致します。
以下のGoogleフォームから参加登録いただけますと幸いです。
https://forms.gle/kufcfN5VNtH2RJdB9
使用言語 日本語

WINEオンライン・シンポジウム(第3回研究会)「ナショナル・インディファレンス (national indifference)論を再考する」

日時 2020年7月18日(土)14:00~17:00
場所 Zoomによるオンラインシンポジウム(下記の申し込み方法を参照)
開会の辞 中澤達哉 WINE所長(早稲田大学)
報告者・報告題目

・中辻柚珠(京都大学大学院)

「ナショナル・インディファレンス研究が抱える混乱―課題と今後の展望」

・小田原琳 WINE招聘研究員(東京外国語大学)

「記述と規範のあいだのナショナル・インディファレンス」

コメンテーター

・井出匠 WINE招聘研究員(福井大学)

・篠原琢 WINE招聘研究員(東京外国語大学)

申し込み方法
参加については事前登録制を設けます。
登録情報に基づき、 主催者からZoomの招待を致します。
以下のGoogleフォームから参加登録いただけますと幸いです。
https://forms.gle/VugqGYqSQLq8Bbja6
使用言語 日本語

関連研究会:2020年度歴史学研究会大会・合同部会シンポ「「主権国家」再考 Part 3-帝国論の再定位」

日時 2020年11月29日(日)14:00~17:30
場所 Zoomによるオンラインシンポジウム(下記の申し込み方法を参照)
主旨説明

中澤達哉 WINE所長(早稲田大学)

 20世紀末までに、ヨーロッパ近世の主権国家像は大いに更新された。1975年のH・ケーニヒスバーガによる複合国家論がその嚆矢となり、92年にJ・エリオットの複合王政論、98年にはH・グスタフソンの礫岩国家論が続いた。79年の二宮宏之の社団的編成論もこの潮流に付け加えねばならない。これらの一連の研究を通じて、君主のもと税制・軍制・官僚制によって中央集権化を進め、対内的に排他的な管轄権を有し、対外的には自律性を保持した主権国家群が成立したとする、従来の絶対主義的な近世国家のイメージは、ほぼ相対化されたといえよう。こうした新たな研究は、ヨーロッパ近世を、一人の君主支配のもとに様々な属性をもった複数の地域からなる「集塊的国家」が形成された時代として把握し直した。君主による排他的な支配ではなく、「王と政治的共同体の支配」とも呼ばれる近世の重層的な統治の実態に着目したのである。    

 ここで近年の歴史研究者にとって新たな関心の対象になっているのが、近代の帝国の捉え直しである。君主が複数の国家や地域の合従連衡のうえに緩やかに君臨していたとする近世国家像が提示されたのであれば、当然ながら、旧来の近世国家認識を前提に近代の諸帝国を検証してきた近代史研究も相応に変容せざるを得ないのではないか。というのも、かつてのレーニンやJ・A・ホブスンの帝国研究は、以下の歴史上の帝国の多様な像を区別しないまま、次の①に特化して帝国を論じる傾向があった。①植民地化・資本主義化・住民の大量移動にみるような、無制限の拡大や増殖を伴う近現代の独占資本主義国家の支配域、②-a一つの公共体としてのキリスト教国家Respublica Christianaの存在を前提に、個別統治権(magistratus)を神の秩序に由来する固有の権限として承認する秩序体系としてのインペリウム(至高権・命令権・最高権)とこれが行使される圏域。②-b「君主と政治的共同体の支配」構造をもつ、複数の国家・地域間の合意・合従連衡に基づくインペリウム(imperium至高権・命令権・最高権)とその広域的・礫岩的統治領域。これらのインペリウムは、③ボダンによってあらゆる統治権の権源として把握された君主がもつマイェスタース(majestas至高権・絶対的統治権)と明らかに対立するものの、日本語では両者は(中近世ヨーロッパ君主権の微妙な差異を抹消して)一元的に「主権」と訳される傾向があった。さらに、「主権」は、③から市民革命と国民国家形成を経て①への移行が説明されることで、18世紀末—20世紀前半の主権国家第二期に全盛を迎えるとさえ考えられた。ここでは明らかに、上記②a-bのインペリウムを念頭に置く帝国論が欠落していることが分かる。2000年代にブーム化したA・ネグリとM・ハートのソフトなネットワーク帝国論も、近世国家史研究の主権国家批判から発せられている重厚な問いに応答していないというのが現状である。    

 以上の理由から、本シンポジウムは、「「主権国家」再考Part 3―帝国論の再定位」をタイトルに掲げた。これは、2018年度の「「主権国家」再考」と2019年度の「「主権国家」再考Part 2―翻訳される主権」の問題意識を深めるものである。一昨年は、ユーラシア北西部にあたるヨーロッパの文脈から近世国家の多様性(imperium, majestas, souverainité)を詳らかにすることによって、従来の主権国家像の相対化を図った。16—17世紀ヨーロッパにすら、至高権をもつボダン型の主権国家は存在しない。これに対して昨年は、検討の対象を空間的にも時間的にも拡張し、19世紀のユーラシア東部・アジアにおける主権概念の拡大と変容にかかわる問題を視野に入れた。その際、目下、相対化されつつある近世ヨーロッパの主権概念と近代アジアに拡大された主権概念との相応を「翻訳」という観点から考え、その複眼をもって、主権を改めて捉え直すことを目的とした。この2年間の研究を通じて、いずれ現実のものとなる主権国家第二期の近代帝国が世界的に拡大したことの根拠とそれが孕む問題性を見極めつつ、従来の帝国像を近世史の成果を踏まえて再検討し、帝国論を再定位することの必要性が確認されたのである。    

 さて、ヨーロッパの視点に立つならば、近世複合国家を起点に近代帝国を再考する際の出発点となるのが、「近世的集塊の整序」という見方である。これはあくまで「整序」であり、集権化や市民革命による「解消」ではない。近世複合国家が近代を迎える頃、18世紀の自然権や人権、民族や人種概念の導入を受け、近世秩序の抜本的な整序が必須となっていた。国家構造の改編にあたって、統治の正統性や構造がどう変わり、統治の実態がどのように変わったのだろうか。以上は、ともすると、ヨーロッパ近世史研究の変化を踏まえた、ユーラシア北西部に特有な語彙と概念に基づく近代史への問い立てになるのかもしれない。つまり、ユーラシアの中・東部ではこうした視点は共有できるのであろうか。ヨーロッパの帝国理解が変化するなかで、ユーラシアの帝国のイメージは総体としてどのように変わりうるのだろうか。  

 本シンポジウムでは、近代の帝国を便宜的に「君主たる皇帝が多民族・多宗教・多文化の多様な社会集団を統御しているインペリウムとその広域支配圏」と定義しよう。君主はどのような統治構造のもとどのように統治を貫徹しようとしていたのか。君主は自らの統治の正統性の創造に勤しむ一方、多様な領域を管轄するがゆえに、地方統治の末端では官吏が数多くの困難に直面していたはずである。したがって、それゆえに本シンポは帝国論の再定位に際しての検討対象を、①近世・近代帝国を構成する地域の変容を踏まえた「統治の構造」のほか、②統治の現場にあった地方官吏とその組織による「統治の実態」に定めたい。というのも、②の統治の実態を補助線にすれば、近世から近代にかけての帝国統治の複数の実態を実証的に比較することが可能になると考えるからである。そして、この問題を究明するための最適な素材が、帝国構成部分の変容や組替が行政上可視化されやすい陸続きの大陸帝国―ユーラシア中・東部にまたがるロシア帝国と大清帝国である。両国は絶対権力者たる皇帝が極めて広域の領域を統治してきたという意味で似通っている。    

 このような問題意識のもと、本シンポジウムは以下の二報告を用意した。杉山清彦報告「複合国家としての大清帝国―マンジュ(満洲)による集塊とその構造」は、近世ユーラシア東方の大国・清を取り上げ、中国王朝「清朝」としてではなく、それをもその一面とする、ユーラシア世界の「大清帝国」と捉えて、その複合的性格と統合のあり方について論じる。マンジュ人の皇帝が中国漢人社会とモンゴル=チベット仏教世界とを束ねるという構造の提示は、近世・近代の帝国論の再考と交叉するはずである。    

 一方、青島陽子報告「ロシア帝国:陸の巨大帝国と「不可分の国家」像」は、近代ロシアが多元的な社会を抱えつつも、帝政期の国法学者や官吏たちが「不可分の国家」という自己像を維持し続けたことに着目する。構造化されない、パーツに分割しえない、多元性に基づく国家の在り方を、現代ロシア史学の帝国論、帝政期の国法学、帝国西部諸県の事例研究を組み合わせながら、近代から近世への架橋を試みる。  

 以上の二報告に対し、ブリテン史と日本近代史のコメンテータ(稲垣春樹氏、松方冬子氏)が専門の地域と時代から両報告を架橋することで、帝国論の再定位に関する議論を深化させる。以上の営為は、将来的には、主権国家第二期における帝国の世界的拡大だけでなく帝国と国民国家の相互浸潤をも、西洋中心主義や従属論と異なる近世・近代国家史研究の視点から検証していく際の布石となるであろう。方法論的にも認識論的にも現代歴史学の新たな地平を拓くことに繋がるはずである。(中澤達哉)

報告者・報告題目

・杉山清彦(東京大学)

「複合国家としての大清帝国
 -マンジュ(満洲)による集塊とその変容-

・青島陽子 WINE招聘研究員(神戸大学)

「ロシア帝国-陸の巨大帝国と「不可分の国家」像-」

コメンテーター

・稲垣春樹(青山学院大学)

・松方冬子(東京大学)

申し込み方法
以下のGoogleフォームから参加登録いただけますと幸いです。
https://forms.gle/vfTfVtuowexg78Z3A
使用言語 日本語

お問い合わせ

  • 〒169-8050 東京都新宿区西早稲田1-6-1 早稲田大学9号館355室
    〒162-8644 東京都新宿区戸山1-24-1 早稲田大学文学学術院・中澤達哉研究室
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